人生の中で誰しも一度は写真屋さんにお世話になるもの。
記憶はなくても写真館で撮られたお宮参りや七五三などの記念写真が残っているという方も多いと思います。
写真が一般的なものになってから100年ほどが経ちます。
この長い年月の中での写真の技術や機材の進歩はすさまじく、それによって写真屋さんのお仕事も変わり続けてきました。
写真館で撮影するとなると数万円という決して安くはない費用が必要になりますし、一生の記念ですので悔いのないものを残したいですよね。
”写真屋が売るもの=お客様にとって利益となるもの”
写真が一般的なものになってから現代にいたるまでの変化を振り返ることで記念写真の本質を浮き彫りにし、これから先の未来に何を残すべきかという問いのヒントになればと思い記事を書いていこうと思います。
明治・大正時代の記念写真
この頃はまだカラー写真はなく写真といえばみな白黒写真でした。
写真を撮るということ自体が誰でも気軽にできることではなく、写真を現像し、プリントとして仕上げるのにも専門的な技術や機材が必要でした。
この頃は写真を撮るということ自体に大きな価値があった時代です。
プリントされる写真自体も高価なものでした。
写真館はすでに存在しており、当時は文明開化の象徴のような存在でした。
日本にカメラが伝来したことでこれまで浮世絵師がしていた仕事が減ってしまうということで白黒の写真に浮世絵の技法を使って色を付ける彩色写真というものが存在しました。
こちらの写真については色違いが数種類残っていますので色を付けた人は想像で着色していたのだと思います。
この写真もそうなのですが、彩色写真の多くは開国した日本に来た外国人のお土産用として売られていたようです。
当時も白黒写真で満足していたわけではなく、できればカラーで残したいという思いがあったことがうかがえます。
昭和初期の記念写真
昭和は長いので前期と後期に分けていきます。
昭和初期というと令和世代からしたらまだ相当昔のイメージかもしれませんね。まだ第二次世界大戦も始まっていないような時代です。
この頃は写真機自体も庶民に普及してきた時代。
現代のように日常をスナップとして残すことも可能になってきた時代ではありますが、やはり写真自体が今よりも貴重ですので誰もが気軽に何枚も撮るというわけにはいかなかったようです。
この頃もまだまだカラー写真は一般には普及しておらず、昭和25年ごろまでは圧倒的に白黒写真が主流でした。
すでに写真館も登場してしばらくたったころですが、依然として写真は高級なものでした。
写真を撮るということ自体がまだ特別感のある時代です。
たくさん撮れないからこその価値もあったと思います。
昭和後期の記念写真
一般にもカメラが徐々に普及していき、家庭で撮影した写真を写真屋さんで現像してプリントするという機会も爆発的に増えていきました。
昭和30年代後半にフジカラーの現像所が全国に整備されはじめ、どこでもカラーフィルムの現像やカラープリントができる体制が整ってきました。
昭和40年頃になるとカメラの普及率も50%に上昇。2世帯に1台という状況になっていきます。
昭和45年ごろになるとカラーフィルムが家庭にも普及し、徐々にカラー写真がメインになってきます。
昭和50年ごろになるとほとんどの一般家庭でも撮影がほぼカラーという状況になりました。
とはいえやはりフィルムもプリントも高価なものでしたので、1本のカラーフィルムを現像してプリントするとなると数千円から1万円以上かかっていました。
デジタルで何枚でも気軽に撮れる今と比べるとまだまだ1枚の重みは重かったことでしょう。
このようにカラー写真も一般家庭で撮れるようになった時代でもまだ写真館は大繁盛していました。
写真を撮ることに大きな価値があった時代から写真を上手に撮ることに価値があるという時代になってきています。
とはいえ実際は明治時代から写真館もただ写真を撮っていただけではなく、現代のプロカメラマンの私から見ても写真黎明からすでにライティングや構図などの基本を押さえた今とさほど変わらない撮影技術が垣間見えます。
それが昭和後期まで写真館の付加価値として成熟し、根付いてきたということです。
これがなければ写真館はこの時期から衰退していたでしょう。
平成の記念写真
平成になってくると写真を撮るだけならば一般の方でも簡単にできるようになっています。
写ルンですのことを知っている人も多いと思いますが、本当にお店で買って開封してフィルムを巻いてシャッターを押せばとりあえず写せるという状況がすでにできています。
手軽さで言えば現代にかなり近くなってきています。
私は写真館を経営していますが2代目ですので、このころはまだ子供でしたが父の手伝いとしてよく店番をし、お客さんからフィルムを預かったり現像所にフィルムを届けたりしていたのを覚えています。
写真館も数が増えてきたところでスタジオアリスなどのチェーン店も出現し始めました。
そしてフィルムからデジタルへの大転換期にもなります。
写真業界的にはフィルムが白黒からカラーになる以上の大きな変化です。
フィルムの扱いや現像の技術はもう必要なくなり、デジタルデータとして記録された写真の扱い方を覚える必要がありました。
カメラもデジタルに切り替わり、フィルムを現像してプリントするという仕事も激減していきます。
チェーン店では衣装も美容も一緒になり、とりあえずお店に行けば全部そろって写真が撮れるというこれまでにないサービスが展開されます。これは今でも続いていますね。
となると古くからある写真屋さんは衣装も美容もないため、どんどん新しいチェーン店にお客様を取られていきます。
しかし写真館はなくなることはありませんでした。
この時代になると写真屋さんの価値は写真を残すという価値から写真を上手に残すというものに完全に変わっていることが大きな要因といえるでしょう。
もちろんチェーン店のカメラマンさんたちもお子さんとコミュニケーションを撮りながら撮影をする技術はかなりのものですが、ロケ撮影や現場でのスナップ撮影などの幅広い撮影技術ということになると写真館に軍配があがるのではないでしょうか。
もう写真館でフィルムを現像してもらうという概念も徐々に忘れ去られてきているころでもあります。
令和の記念写真
令和の写真館はどうでしょう。
徐々に昔ながらの写真屋さんは過疎化や後継者不足などの理由から残念ながら減少しています。
誤解を恐れずにいうとプロカメラマンというものは自称すれば誰でもいつでもなれるものです。
それで生計を立てられるかは別として、最低限の機材があり仕事さえ取れればプロカメラマンいう職業を生業にできます。
これまでは写真館である程度経験を積んだ人が独立して起業するということが一般的でしたが、今ではちょっと前までサラリーマンでした、看護師でした、美容師でした、というような人たちがフリーカメラマンとして活動しています。副業カメラマンも大勢います。
写真業は他社との差別化が難しく、お客様からしてもどこがいいのか判断するのが非常に難しい業界です。広告やSNSには上手に撮れたものしか出しませんし、撮影が終わって写真を見せてもらうまではその人が本当に優れたカメラマンだったのかどうかは判断できません。
副業でカメラマンをしている人の中には写真館のカメラマンよりもずいぶんと安い金額で仕事を受ける人も少なくありません。
このことは写真館に全く影響がないとは言えないでしょう。
私は写真館で生まれ育ち、他のスタジオでの勤務経験もある写真館経営者ですが、その立場から言わせていただくと今の写真館の価値はいい写真を撮る確率が高いことです。
チャンスの時に撮り逃さず、その状況においてベストな撮り方を瞬時に判断することでいい写真を撮る確率を上げることができるのですが、そのためには基礎的な知識や技術の勉強が不可欠です。
ポーズやライティング、そして着物の正しい形の作り方などの技術も必要。
そして何より場数が大事です。
どんな状況でもベストな写真をコンスタントに撮り続けるためには頭の中に引き出しがどれだけあるかが非常に重要になってきます。
写真館の価値はまさにそこにあります。
写真はセンスだからという言葉をよく聞きますがそれは半分正解で半分間違いです。
センスは必要ではありますがそれよりも努力と知識と経験の方が何倍も重要だと考えています。
写真館である程度経験を積んだ人ならばほとんどの場合安心して任せることができると思っていただいて大丈夫です。
プロカメラマンには技術以外にもコミュニケーション能力も必要ですが日ごろから記念写真を撮ることを仕事としている写真館のカメラマンならばそのあたりも心配いりません。
フリーカメラマンの方々は本当に多種多様です。
正直言うと私たち写真館の人間からするとカメラマンの風上にも置けないような人間性を疑いたくなるような人たちも大勢います。
この業界にいるとそのようはトラブルの話をうんざりするほど耳にします。
もしフリーカメラマンを検討されるならばタレント的に自分のキャラクターを前面に売りに出している人よりも実績重視で選ばれることをお勧めします。特に結婚式当日のスナップ撮影については専門性が高いのでフリーカメラマンで問題なく仕事ができる人はほんの一握りと思っていただいた方がいいと思っています。
そして大事な記念写真であるならば100年以上前から専門職として存在する写真館のプロカメラマンを検討されることを強くお勧めします。